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スタープレーヤー555

素性の良さが、装置を選ばず歌ってしまうお話

スタープレーヤー
たしかにオーディオでは、システムのバランスがポイントである。バランスというと、同程度の性能装置を巧くミックスする平均的なバランスをとる手法を想像しがちだが、アンバランスというバランスもある。マリア・カラスがスカラ座で歌えば、それは最高レベルのバランスだ。しかしもし彼女と友達になって、町の公民館で歌ってもらったらどうであろうか?この取り合わせはアン・バランス極まりなく、環境はとても悪いだろうがカラスはカラスに違いなく、その歌声はすべての悪条件をものともせず、会場はまさに興奮の坩堝と化すにちがいない。

ウエスタン・エレクトリックのシステムは、非常に高価であり伝説と迷信の中に存在し、高いレベルで完全なバランスを追求するのはとても難しい。しかしながら、アン・バランスのバランスを理解すると、そこには、別の愉しみ方がある。ここでは、ウエスタン・エレクトリックの名器といわれる555ドライバーをアン・バランスな世界で、思う存分歌って戴こうと考えた。ウエスタンの研究家や信奉者の方々には、お叱りを受けるかも知れないが、私も594Aではストイックな追求もしてはいるので、そちらのほうでお許しを戴きたい。

 

1万1000円のアンプとCDプレーヤー

使用する装置は、普通のCDプレーヤーと普通のアンプである。ここでは、中古で1万円で購入したテクニクスのSL-P777とこれまた、フリマで千円でころがっていたソニーの333ESXのプリメインアンプだ。さてここで、スタープレーヤーのWE555ドライバーに登場してもらう。ポイントは、メインアンプとの接続ケーブルをなるべく、太く短くすること。高価な電線は必要ない。
あとは、ハイパス・フィルター用のキャパシタを直列に入れること。このキャパシタは、40uFから80uFくらいの無極のフィルム・コンデンサを使う。実は、このキャパシタは無くてもいいのだが、トランジスタ・アンプが壊れると、場合によっては直流がボイス・コイルを焼損するので、保護用としても入れたほうがよい。
ちなみに40uFだとカットオフが、248Hz、80uFだと124Hzであるから、この間で好みで選べばよい。
ただし、人間の耳は、進化の過程で人の音声を識別できるように特別に発達していると私は考えているので、人間の声の帯域に入る音を一つのスピーカーでカバーするのがポイントであると思う。
人の声の周波数成分は、100Hzくらいから入っているが、8,000Hzから200Hzまでは、絶対に555ひとつにまかせたほうがいい。低いほうの250Hz位までは、人間の耳はかなりシビアに識別するので、400Hzとか800Hzでクロスするとユニットに跨る音の差がバレてしまう。ギリギリで、6dB/octの300Hzだろう。

ホーンの選択

さて次は、ホーンであるが、WE555はホーン次第でかなり音が変わる。またホーンと一体で音作りがなされているともいえる。
ホーンも随分と高価なので、ピアノ・ソロなどはホーンなしの裸でも十分いける。いろいろ試したが、手ごろな価格でコンパクトなものとしては写真の31Aタイプのホーンがよいと思う。ただしスロートの径があわないので、アタッチメントを探す必要がある。このアタッチメントは、ウエスタンの純正品がないので適当なものを探す。自作する方は、ブリキの板で3Aホーンをデッド・コピーするのがよい。3Aは、ペアで40から50万円もするので作ってしまおう。ただし、オリジナルの音にはならない。しかし彷彿させることはできると思う。31Aホーンは作れないが、アルテック製でも音は変わらない。というか、WEブランドでもアルテックブランドでも、ホーン鳴きのするものとしないものがあり、個体差が大きい。また鳴かせない鳴らし方と鳴かせる鳴らし方があって、これは、鉛のシートをホーンにかぶせて調整すればよい。またやかましい感じがある時は、ドライバーから出た音がぶつかる内部の曲がり部分に布やマウス・パッドを置いて調整する。

低音の追加

さて低音の追加であるが、最近のスピーカー・システムは、小型でも十分な低音が出るが、励磁型のコンプレッション・ドライバーの音の速さには、遅くてとても追いつかない。当のウエスタンでもウーファーが追いつかないので、励磁ドライブで15から18インチの大口径を複数個つかって、輻射面積を稼ぎさらにホーン・ロードをかけている。この点は、人間の耳と脳の情報処理系をうまく騙して、その補完能力を利用しよう。実際に低音が十分に出ていなくとも、倍音がうまく識別できると人の耳は、基音が出ているように錯覚してくれる。すぐにはわからなくとも、十数分くらい時間をかけると、この補正がかかってくる。あとは毎日聴いていると、プログラム化されやすい。
最近のアンプは、だいたいバイ・ワイヤリングできるので、1つを555にもう一つを今使用しているスピーカー・システムに
つなぐ。さて市販のスピーカー・システムの中音域を担当しているスコーカーというものは、555に比べると、というか比べてはいけないのだが、まったく歌わない。このスコーカーの音をだまらせなければいけない。かといって、ウーファーの線をスピーカーボックスから単独に引き出すのは少々乱暴である。というか不要になった時に引き取り手がつかない。
そこで、スコーカーを鳴らしたままで、音の出口にふたをする。ツイーターがついている場合は、これはそのまま鳴らしておいたほうがいいことが多い。なにしろ、555は8,000Hz迄しか再生しないからだ。お勧めは、ツイータにもふたをしてしまい、このふたの開き具合を変えて、好きな音のバランスに調整する。
レベルの調整

さて、これでスター・プレーヤーのステージができた。ポイントは、555になるべく自由に歌ってもらうことにある。そして、不足する低音や超高音を、ほんの少しだけ既存のスピーカーシステムで加えてやる。555と既存のスピーカーのレベルの調整は、マルチアンプが望ましいが、バイ・ワイヤリングでは難しい。
そこで、WE555の励磁電源の電圧を変えて、ドライバーの特性と音圧を調整する。WE555の定格は、7Vの1.5Aだが、この電圧を落していくと音の浸透力と飛び方が弱くなっていき、音が遅くなり寝てくる。同時に低音の出方が軽くなり全体的に甘い音になり音も小さくなっていく。組みあわせる一般のスピーカーは能率が低いものほど、パワーリニアリティーはあるが、音が遅く、寝ておりボケて繊細さが減少する傾向にある。低音と超高音だけ使用するので、あまり気にする必要はない。
併用するスピーカーシステムにマッチするところに、励磁電源の電圧を落して調整する。音量のレベルを合わせる目的で絶対に抵抗性のあるものをアンプとスピーカーのボイスコイルの間に入れてはいけない。

こうして調整してみると555ドライバーの素晴らしさにあらためて驚かされる。フィールド電源の電圧をかなり下げても素性のよさはかわらない。むしろ協調性が出てくる。アンプもあまり選ばず自由に歌いまくるので、もう脱帽して聴くしかない。ちなみに当方が555とサブ・システム・コンビネーションを組んでみたのは、クリプシュのラ・スカラである。低音のクリプシュ・ホーンのクロスは、400Hz、ツイーターのクロスは、6,000Hzである。中音のスコーカーのスロートにゴムのチューブを詰め込んで、猿轡(さるぐつわ)にしてある。このアン・バランスなシステムでマリア・カラスが見事に歌いあげるのは、555とコンビネーションを組んでいるスピーカーの名前が、ラ・スカラ(スカラ座)だからなのかも知れない。

3/25/2004