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音の謎 2

名音、名演、名器の秘密

  名演、名曲、名器とよい音の秘密  
  このHPをごらんの方は、それなりのオーディオ・ファンの方と推察するので、私の乱暴な議論も何とか斟酌して戴けるのではないかと思いながら、ちょっと冒険的な”仮説”を話してみよう。  
測定器などで定量化できる基準としては、音の大きさ、周波数特性、歪み、位相、過渡応答などがある。また、人によって尺度や捕らえ方が異なるだろうが、濁った、澄んだ、明るい、暗い、軽い、重い、湿った、乾いた、などさまざまである。一つの方法として、ライブの音、演奏会の音、原音を心に留めておき、さまざまなオーディオ・システムの音を聴いてみてはいかがだろうか。

私は、あまり歪みや周波数特性には細かくはこだわらないほうだ。周波数特性の場合は、40万の法則というのが知られており、再生周波数の上限と下限を掛けて40万近くの値になるのが、バランスがよいと言われているものだ。可聴周波数が、20Hzから20KHzとされているのは、確かに乗すると40万になる。WE555ドライバーの高域のカットオフを7.5KHzとすると、低域を53Hzにとらなければならい。これはいくらなんでも無理な注文なので、低域を200Hzにすれば高域は2KHzとなる。実は2KHzというのはそれなりに高い音であり、200Hzのほうも結構低い音である。この条件でWE555を一発で鳴らしてみる。きちんと音楽になって聴こえるのである。人間の脳の情報処理能力が、再生周波数以外にある情報を狭い帯域内にある情報から補完するのである。同様の実験を現代の高級な装置で実験してみると、音楽情報があきらかに不足して聴こえる。つまり脳の情報処理システムの補完が十分機能していないように思われる。蓄音機やベル研究所の人たちは、あきらかにこのことを知りながらモノを作っていたようだ。脳の情報処理システムをうまく機能させるための音響システム設計は、現代の測定器群が提供するデータとは、別のファクターにも注目する必要があるのだろう。

     
  音と音楽は、どのように処理、認識され、記憶されているのだろう  
  まず音は、空気中を疎密波として伝達され、これが耳の鼓膜を振動させる。また体全体が振動として受信する。鼓膜の振動と骨伝導は、この時点で周波数特性、過渡特性、歪や分割振動などのあらゆる非直線性をもつ。まずセンサー部分がこのような状態である。続いて神経を経由して情報は脳に送られて処理されるが、脳の処理はさらに複雑だ。フレッチャー・マンソン・カーブに見られるように、可聴周波数帯域においても感度レベルが大幅に異なるし、明らかに変化量に対しては、敏感に反応している。これらの膨大な情報量は、さらに最終的に記憶として再構築されて、そのイメージを思い出しやすい形で記録されていると考えられる。  

あらためて、ノイズにまみれた、ウラディミール・ド・パハマンのSP復刻の葬送行進曲を聴いてみる。あきらかに、時系列上で音が欠落して失われている。つまり音符に該当する音が録音上欠落しているのである。しかし演奏を聴いている我々は、この欠落した音符を見事に補完して聴いているのである。気にならないのである。ホロヴィッツのピアノの演奏もよく聴くと存在しないタッチの音を我々が補完して、聴こえるかのごとく誘導する弾き方をしている。こんなに速い運指で微細な音の強弱を表現できるはずがなく、ピアノの機械的な音の強弱の表現限界以上の音のグラディーションを出している、というか、それを我々の脳が補完できることを知っていて、その補完能力を駆使して、限界を超えた世界を表現しているようだ。脳は、このように情報としての信号を処理している。我々が名演であるとか、よい音だという感じるのは、脳の情報処理の結果で判断されている。実は、音の良し悪し、脳の認識は、装置の過渡特性に深く係わっている。周波数特性よりもはるかに重要かもしれない。20KHzまでリニアに再生できる一般のシステムよりも、13KHz程度しか再生できない装置でも、過渡特性が優秀であれば、高い音をより正確に識別できるのである。ベル研究所のスタッフは、この事を知り抜いて製品を開発しているのか。

   
 

この仕組みに精通すると、コストをかけずにうまくバランスをとって、”よい音”のするシステムに仕上げることができる。反面、高性能の装置や、名器を組み合わせても、バランスの悪い音になることがある。性能が高いが故に再生できた情報も、それとセットで必要になる情報が揃っていないと、脳はその情報をうまく処理できずに、結果としていい音として我々に認識されないことになる。これが、バランスをとるということなのだ。

 
ウエスタンのシステムをオリジナルの状態のコンビネーションで使用するというのは、ある意味で正解である。ウエスタンは、まさにその状態でバランスをとっている。ウエスタンのスピーカーのリード線などを見ても、こんなところに細くて純度の低い銅線を何故使用するのだろうかと思うが、実はそれでもってバランスをとっている。6Nや7Nを使用すると破綻することがある。594Aのダイヤフラムのリード線も細い。オリジナルのWE755Aのリードも初期は細い。アルテック以降の755Aでは、"良い"銅線が使用されている。バランスというものの本質が分かっていない後期の設計者が、抵抗値が低ければよい音になるだろうと思って、変えてしまったものかも知れない。いずれにしろ、ALTEC 755Aは、外見も仕様も全く同じだが、Western 755Aの音はしないのである。
1/1/2004 (3/3/2006 改定)