1970年代にテレフンケン製の楕円スピーカーを初めて聴き，驚愕した経験があります．この写真に写っているものとは別のシリーズのスピーカーですが，音の傾向は同じです．比較的強力なアルニコ磁石に軽量で強靭なコーンを駆動するものです．ドイツにはテレフンケンの他にグルンディッヒ社などでも楕円型のユニットが作られています．今日主流のｆ0を下げた重いコーン紙をその能率の悪さを打ち負かすように，強力な磁気回路と大出力のアンプで駆動するというやり方とは全く異なっています．軽いコーン紙なので，駆動力が大きくありませんのでそのぶんフレームも軽量ですむわけです．多くは機器組み込み用途のように思われますがハイファイのセパレート・スピーカーにも使用されています．

音の傾向

何といっても素晴らしいのは，過渡特性のよさによる音の繊細さと表現力です．識別できる情報量の多さも特筆すべきものです．ユニット単体で鳴らすととにかく低音域がでませんし，音の印象に暗さが伴います．フレームも弱いので共振します．しかし箱の作り方とそのバランスのとり方で音は豹変します．これがあのユニットなのだろうかと思うような音になります．つまりは箱の作り方が鍵で，別の項目で紹介した楕円型のテレフンケンのスピーカー・ボックスの中身もこのスピーカーが入っています．フレームを補強して大きめの平面バッフルで鳴らすのもいい方法です．侮れないのは，ダンボール箱にひょいと取り付けただけで，驚くような充実した音が聴けます．チェロなどの弦楽器が素晴らしいですね．シンフォニーなどでは音楽の骨組みをしっかりと聴かせるところがあります．一度は聴いてみるべきスピーカーです．イギリスの音，アメリカの東，西にもない音の世界があります．ドイツという国がいかに音楽的文化に対する素養を深く持っていることわ感じさせるところがあります．無理のない等身大の中に深い音楽への理解がしのばれます．不思議ですね．