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EMTカートリッジ

 

EMTカートリッジについてのお話し

 

私はもうこのかた20年以上もEMTを標準の常用カートッリジとして使用している。このカートリッジを使用し続けている理由は、とびぬけてよい音がするからという訳ではない。安定して生産されつづけ、高価ではあるが入手可能で、トーンポリシーが一貫しているからだ。音楽の表現力に関しては、十分であり、ありのままに慄然として淡々と鳴り響く。特に誇張したところのない点がよい。システムを追い込んでいく上では、この音を知っていれば、リファレンスとして使用することができる。どのようなジャンルの音楽を再生しても破綻したり得手不得手をさらけ出すことがない。もちろんオルトフォンの音造りの精妙さとその卓越した音楽の再現力、その魅力がEMTを優ることは十二分に承知している。

このEMTの一貫性に関しては、あきれるほどで、分解してみるとまったく異なる構造のステレオ用のTSD、モノラル用のOFDが、同じ音で鳴る。驚くほどトーンポリシーが一致している。

 

 

 

このことは、ステレオ用のシステムもモノラル用のシステムもそのリファレンスに同一性があるといことで、プロ用の凄さが感じとれる。TSD-15とOFD-25は、確かに同じ音だが、彫りの深さ、再現力、エネルギー、プレゼンス、あらゆる面でモノラル用のOFDは、ステレオ用のTSDを遥かに凌ぐ。しかしながら、悲しいことにOFD-25(オルトフォンのCG-25Dも同じだが)は、針先のコンプライアンスが低いためどうしてもトレースできないレコードがあり、このような場合は、TSD-15を使用する。このとき音が同じであるということは、バランスを取り直す必要がなく、実にありがたい。

しかしながら、ステレオのレコードは、やはりTSDでかけないといけない。理由は、ステレオの音溝に刻み込まれている、音楽情報をモノラルのカートリッジでトレース時に"合成"してはいけないのだ。ステレオ録音は、左右2つの異なった音声信号を別々のスピーカーで再生して空間で合成しないと再現できない音があるからだ。特に左右の位相差を空間で合成して初めて現れる音は、モノラルのカートリッジでは再現できない。

同様にモノラルの録音をステレオのカートリッジで再生しても良い結果にはならない。1つの信号を1チャンネルのアンプで、1本のスピーカーで聴かないとほんとうのモノラルの音にはならない。つまりモノ用とステレオ用の装置がどうしても必要になる。

     
EMTのカートリッジを使用するときに悩むのは、アームの問題だ。というのは、EMTのカートリッジの出力ピンは、十文字配列になっており、通常のユニバーサル型のピンの配列に対して45度回転した状態になっているからだ。これでは普通のトーンアームにはつかない。このような十文字配列になっている理由は、古いOFD型のカートリッジをみると良くわかるが、最初はモノラルしかなかったので、2本のピンが横向きに出ていた。そのあとステレオ方式が発明されたので、上下に2本のピンを追加して十文字配列になった。ごく自然の成り行きだ。
 
 
  私は、EMTのシェルを改造して、中のピン・ユニットを45度回転させてユニバーサル型のアームにつけられるようにした。これがあると、どこでもEMTのリファレンスで、音決めをすることができる。TSD-15の中身をユニバーサル型のピン接続のシェルに収めたXSD-15もあるが、アームに繋ぐ根元が長いためバランス的に完全にはTSD-15と同じにはならない。同じ理由で、EMTの十文字をユニバーサルに変換するアダプターも好ましくない。アダプターを使用すると機械強度が低下し、共振点も変わり、接点も増加するので、XSDを使用するよりもさらに結果を悪くする。ユニバーサル型へのシェルの改造は、精度を出すのがとても難しく、加工用の治具から作らなければならないので、かなりの難儀をする。またEMTのシェルは、音質に関係しない部分は、あっさりと製造されているので、寸法上の個体差が大きく、1本1本の現物のばらつきに合わせて加工精度を出していくため、とても手間がかかり、あまりお勧めできない。  
 
 
  本当のところ、927と930を1台づつ欲しいところだが、スペースと予算の都合で、そうもいかない。TSD-15の中身を外して、LINN LP-12のITTOKアームに直接取り付けて使用している。  
 
 
  EMTは音がいいか  
 

趣味として音楽を楽しむ上では、オルトフォンのカートリッジのほうがいいと思う。確かに私は、EMTをリファレンスにしており、その精神性の高さには、感心させられている。OFD-25と同じ構造のユニットのオルトフォンのCG-25Dは、確かに音に色づけがしてあるが、これはあまりに見事。確信犯の領域をとおりこして、まさに芸術の域に達している。これを上回る凄まじさは、Western Electric 555 Receiver に聴くことができる。

 
 
1/5/2004