. 情熱のオーディオ TOP (A)  
/homepage/audio
HOBBY HP (A)
.

ベースアンプ 2A3PP (ハイ・インピーダンス電源)1号試作

大星夜アンプと励磁電源設計ノウハウを回路に展開

  アナログ電源のノウハウを回路技術に展開してみる  
 

人生というものはそう長いものではありませんね。 Arts longa vita brevis (芸術は長く人生は短い)という諺もありますから、永遠なる芸術に対して数十年という人生はあまりに短いと言わざるを得ません。科学技術の研究分野では、多くの研究論文が蓄積されていて、同じ研究や失敗を二度と繰り替えさなくとも、先人の成果をもとに前に進めるようになっています。個人の道楽においても堂々めぐりをしないようにしなければ道は遠くなってしまいます。

 
 

音に最も影響の大きい分野は、やはりスピーカーだと思いますが、私も励磁型スピーカーの電源を随分とやってみました。アナログ的な電源に関しては、整流方式(半波,両波,ブリッジ,倍電圧),チョークインプット,コンデンサ・インプット,アノード・コモン,カソード・コモン,定電圧,定電流回路,整流素材に関しては整流管(直熱傍熱,水銀),セレン整流,タンガーバルブ,ダイオード,SBD,と随分と試して記録をとってきました。チョーク・コイルやキャパシタの種類やメーカーも試し、トランスも自分で巻いてみました。

 
  アンプの設計では、当初回路方式をいろいろと考えていましたが、音に関しては電源自体に起因するものもかなり大きく、回路の問題と電源の問題が十分に切り分けられず、電源ノウハウを一定水準に引き上げないとアンプの回路も追い込めないと思います。今回やっとまたアンプの設計に戻ってきましたが電源をかなりやったあとでは、アンプに対しての考え方や回路の見方が随分と変わったと思います。今回のベースアンプは電源をかなり意識して能動素子をいかに設計値どおり正確に動作させるかを考えてみました。  
     
  ベースアンプ試作の狙いは  
  単体で高能率スポーカーを直接駆動できる一定の出力を持つこと。ひとりで持ち上げることができ(笑)可搬であること。ひとつの筐体に収まっていることを条件にしています。なんだ当たり前なことをとおっしゃいますが、私の作るものはどうしても節操に欠くものが多いので一定の制約を課することにしました。実際、レギュレーションのないレースやコンペティションはありませんから、制約の中でいかにものをまとめるか、限界を出せるかが工夫のし甲斐ということになります。しかし性能向上の芽を摘んでしまっては意味がありませんので性能向上のための拡張性を持たせることは必要と思います。よってこのベースアンプは様々に発展する余地を解放してあります。たとえば、このベースアンプで駆動する高圧の送信管ベースのブースターアンプなどを考えています。  
 
 
     
  ベースアンプ1号の構成-出力トランスを使用する  
  まず第一に出力トランスを使用することを前提にしてあります。この第1の理由はスピーカーの安全です。私は貴重なウエスタン・エレクトリックのスピーカーのボイス・コイルをメーカー製(某S社)のパワーアンプで焼損したことがあります。原因はアンプの故障で出力回路と共に保護回路も故障し出力を遮断するリレー自体が動作しなかったためです。第2の理由は、スピーカーケーブルの問題です。アンプからスピーカーまでの距離を低いインピーダンスで引き回すことはグレードを数段引き下げます。よってスピーカーの直近に出力トランスを設置し、トランスの二次端子とスピーカー端子を最短距離で接続します。アンプから出力トランスまでは高いインピーダンスで伝送します。優秀なスピーカーケーブルは出力トランス以上に高価なものもありますが、長さは短ければ短いほど良く、できれば無いに越したことはありません。私は、無いほうがいいものにお金を使うのは疑問が残ります。出力トランスを外に出す方法では真空管の欠点である高いインピーダンスを長所に変えることができます。第3の理由は、トランジスタアンプのように保護回路にリレーなどの接点を持たないことです。1メートル100万円のケーブルを使用するよりもまず、この接点をなくすことが効果的と思います。  
  詳しい方のご質問を想定してあらかじめ補足しますと、電流駆動型のアンプにするという選択肢もありますが、私なりに検討した結果では現状のスピーカーが電圧駆動を前提に設計されていることを考慮すると電流駆動専用設計のスピーカーでないと十分に電流駆動のメリットを出し切れないと考えています。よって今回のアンプは電圧駆動としました。また今回のアンプが駆動対象とするものは、古典的なスピーカーであるということも要因のひとつになっています。低音再生の問題解決のためには、適したスピーカーがあれば当然電流駆動アンプをやってみたいと思います。  
 

続いて、アンプからスピーカー近くのトランスに向かって高電位の電線が部屋を横断するのは危険であるというご指摘があると思いますが、クラーフ結合で伝送しますので2線間には直流電位差はありません。しかしアンプ内部のグランドに対しては、これらの線は高圧になりますので危険は否めません。絶縁などの安全対策は十分に行う必要があります。さらにこのアンプではプレートへのB電源の供給は定電流駆動になっていますのでなおさらです。

 
  ベースアンプ1号の構成-PP方式を採用する  
 

シングル方式の魅力には抗いがたいものがありますが、今回は総合的な判断でPP方式を採用します。第一の理由は同じ程度のリソースと回路規模でシングルの2倍の出力を得られるためです。第2はクラーフ結合時にトランスに直流を重畳しないので、トランスの性能を最大に利用できる点です。このためPP方式ですが動作は純A級となり最大出力はシングルの2倍程度になります。(シングルでクラーフ結合を実現しようとするとどうしても直流をカットするキャパシタを入れる必要があります。)第3の理由はPP方式によってトランスの直流磁化を防止できるためシングルよりもトランスの性能を生かすことができる点です。第4の理由はPPにすることによりB電源の供給を定電流にすることができ、場合によっては差動にも展開ができるということがあげられます。

 
  詳しい方のご質問を想定してあらかじめ補足しますと、対シングルアンプのプシュプルの非対称的動作にどう対応するかという問題がありますが、これに対しては真空管を使用動作点で測定して可能な限り特性の近いものを選別します。さらに(今回は対策していませんが)フィラメントの電流を制御してエミッションをコントロールする方法がとれます。また固定バイアス化により、動作点をかなり正確に調整しより高い対称動作を追求します。実際に高精度のバイアス回路でP-P間電流を定常的にほとんどゼロにしてクラーフ結合時にインダクタンス低下をゼロにしています。  
  ベースアンプ1号の構成-トランス結合方式を採用する  
 

トランスという素材は直流を流さず、また帰還をかけないで用いる限り、可聴周波数帯域では極めて高性能を発揮すると考えています。とくに小型のものは特性を出しやすくなるので、直流を流さないで使用するということは小型化のメリットもあります。よって本アンプでは、トランスの特性を最大限に引き出すためアンプへの入力を平衡入力とし、イントラで受けてこのトランスで位相反転してドライバー段を駆動します。ドライバー段もA級PP動作で増幅しクラーフ結合でインターステージ・トランスをドライブします。当然インターステージ・トランスに直流は重畳しません。回路自体はPPが2段だけで、2段のカプリングトランス自体でもゲインを稼いでいます(初段イントラで1.6X,二段目のインターステージで2Xです)。実はドライバー段の動作点設計では確信犯的にロードラインをかなり”寝かせて”あります。そのための増幅度の不足をトランスで稼いでいます。

 
 

詳しい方のご質問を想定してお答えすると、2段のトランス結合で特性的な問題が懸念されます。帰還がかけられない点はもちろんトランスのPPの上下の巻き線にも相違があってあたりまえです。これに関しては、まったく同じトランスをイントラ(入力位相反転)とインターステージに使用しこの2つのトランスの巻き線を対称的に使用することで補完することができます。(上側と下側の巻き線を初段と二段目を逆にして使うことで特性の相補補償をさせるという方法。)今回のアンプでは、初段イントラがUTC、二段目のインタステージはファインメット・コアを特注で巻いてもらいました。事前に特性をとってその暴れを調べてありますが、聴感上の誤差範囲内であると考えていますので、今回は同じトランスを使用することはしていません。

 
     
  ベースアンプ1号の構成-各電源を安定化する  

 

各電源は真空管を任意の動作点で正確に動作させることができるように制御安定化してあります。雑音の懸念があるのでツエナーダイードは使用していません。基準電圧源は、LSI内部で作られるバンドギャップ電圧を信頼して用いています。各安定化電源は、それぞれすべて独立した回路にしています。このためトランスはチョーク2個、カプリング・トランス2個も含めて合計10個使用しています。整流は直熱型の5R4WGYを使用してあり、このヒーターも定電流点火にしてあります。出力管2A3のヒーターも定電流点火です。よって電源投入時のサージは発生せず、2A3のヒーター電圧は電源投入後に序々に上昇し、約5分で定格電圧に到達します。当然プレート電圧もゆっくりと上昇していきます。整流回路は、チョーク・インプットのパイ型2段フィルタでフィルム・コンデンサは、合計わずかに64uFしかありません。(実は、もっと減らしたほうが効果がありますし、結果もよいのですが、部品の実装上の都合により、大きな容量のものを使用しています。)整流後はドライバー段のプレートには200Hのチョークを介してプレート負荷抵抗に接続してあり、ドライバー段のプレート電流に定電流特性を持たせつつ交流ロードラインをかなり寝かせてあります。2A3のプレート電流はFET回路で定電流化してあり2本ぶんの電流120mAを定電流で供給してあり出力段は擬似的に差動動作をしていると考えることもできます。考え方として定電圧、低インピーダンス電源の双対としての定電流、ハイインピーダンス電源というアプローチになっています。

 
     
  ヒーター定電流回路回路ブロック(LM338使用)  
 
 
 
 
 

右側のヒートシンク・ブロックが2A3の可変ヒーター定電流回路ブロックです。電流センス抵抗で電流をモニタしてLSI内部のバンドギャップ基準電圧と比較してクローズド・ループで電流を制御します。この回路ブロックは同じものがもうひとつ実装され、直熱整流管のヒーターを定電流制御しています。この1号機の出力管は,オクタルソケットです。実は6B4Gとプリントされた真空管をご近所のTさんから珍品として頂戴しましたが、なんとヒーターを計ってみると2.5V 2.5Aの2A3と同じなのです。そんなわけで、命名2B4Gとします。2号機はちゃんとUXソケットで普通の2A3が使えるようになってあります。

 
     
 

2A3プレート定電流回路ブロック(TL431/K3689-600V耐圧)

 
 
 

スペースがないのでCPUヒートシンクを改造して専用ヒートシンクで作りました。ドライブはK3689で、22オームの電流センス抵抗で電流をセンスしてこれをLSIバンドギャップ電圧(1.2V近傍)から作った基準電圧(2.5V)と比較しシャントレギュレータでFETのゲート電圧をクローズド・ループ制御しています。基板の下にあるのは隠しFANで、通常は回転させなくても大丈夫ですが回路定数を変えたときは空冷できるようにしてあります。実装面積が少ないので工夫が必要です。

 
 
 
 

この回路の動作点ですが2A3の動作プレート電圧250V60mA(固定バイアス)に対して2A3の最大定格が300Vしかありませんので、この回路での電圧降下(電圧スイング余裕)ぶんは50Vに設計してあります。本当は電圧スイング余裕度は150Vから250Vくらい持たせたいのですが、もし片方の真空管に事故が発生し電流が流れなくなると、定電流回路は2本ぶんの120mAを流そうとして最大電圧までスイングします。電圧降下ぶんを250V持たせた場合、最悪事故時には残りの1本の真空管には120mAを流しきるまで一気に最大500Vのプレート電圧がかかってしまい2A3が即死しかねません。(残念ながらその意味で押さえてあります。FETK3689は600Vの耐圧がありますので、比較視聴会などには、一発勝負で電圧を上げて、必殺スーパーチャージャーモードで"戦闘モード(笑)"にすることもできますが.....そのときは電圧源を半波整流ミサイル(Y^。^Y)にしたり,さまざまな技を繰り出したりもできますが.....)

 
     
  出力管2A3固定バイアス回路ブロック(TL431/K1157)  
 
 
2A3の固定バイアス回路の構成は,電流センス抵抗で回路電流をセンスしてフィードバックしシャントレギュレータで基準電圧(バンドギャプです。安易なツエナーじゃありません....と言いたい。)と比較してK1157のゲート電圧を制御するクローズド・ループの安定化定電流回路を作り、ここから定抵抗でバイアス電圧を発生させています。コンパレータの比較入力電圧を可変にしてあり電流値を変更し、高精度でバイアス点を設定します。これで2本の2A3のバイアスを調整し、出力トランスのPP間の直流電流値を正確にゼロ近傍に追い込むことができます。これで出力トランスの完全クラーフ結合ができます。
  ドライバ段(6922)固定バイアス回路ブロック(TL431)  
 

ドライバ段の6922(CCa)の固定バイアス回路は,電圧が低いのでシャントレギュレータICだけの電圧センス・フィードバック比較のクローズド・ループで安定化してあります。定電流回路を作ってそこから電圧を発生するところまではやっていません(ほとんど差が出ないだろうと手を抜いてあります。)。ここも高精度でバイアスを設定できますので2つのユニットのバイアスを調整しインターステージの一次側のPP間の直流電流値をゼロ近傍に追い込むことができますのでインターステージ・トランスの完全クラーフ結合ができます。

 
     
  で、どんな音になったの?苦労は報われたの?  
  安定化回路はすべて独立していますから、ひとつひとつを安定化と非安定化してみて比較することができます。すべての点で少しずつ安定化のほうがよい結果を出しています。それらがひとつひとつ積みあがって結果的にかなりよいものになっていると考えられます。モノラル1台が組み上がった状態で、手作りアンプの会の三土会で鳴らしてみましたが、おおむね好評の(よう)でした。  
  音はいいのか?  
 

実はこのアンプの狙いは音のよさをではありません。本機のハイ・インピーダンス・電源という作戦は電源に混入する雑音を低減させ、負荷側から電源を見えにくくしてあります。これにより、ひとつひとつの音の識別を容易にさせる効果を狙っています。聴こえにくい音がちゃんと聴こえてきたら音のよしあしの好みを超えて万人にウケるのではないかと思っている次第です。また正確な動作をさせるためにバイアスの安定を考えています。バイアスとは、カソードとグリッドの間の電圧ですから、ここをいかに安定化させるかを考えています。そのために固定バイアスで、カソード電位をグランドに張りつけ、さらに直熱のヒータを定電流で安定化しています。差動も研究したのですが、今回採用していない理由は、カソード側に入る定電流回路の電圧スイングを嫌ったためです。その代わりに、面倒ですが(カソード・グリッド間よりはるかに電圧幅に余裕のある)プレート電圧側から定電流にしています。さらにグリッドのバイアスは徹底的な安定化にチャレンジしています。ツエナーダイオードもこのため採用していません。基準電圧はすべてバンドギャップ電圧を基準にしています。LSI技術は、この点で非常に素晴らしいものです。よってただひたすらにプリサイスな動作を追いかけているだけです。今回ちょっと驚いたのは、無名の2B4Gのタマが大星夜アンプのRCAの2A3のような音の傾向になったことです。回路動作の追い込みが素材の差による違いを変える効果があるのかも知れません。逆に言うと名球とか有名メーカーの球は、回路の動作環境が悪くてもそれなりにきちんと動作するとか雑音や振動の影響が少ないとか、やっぱり良くできているということなのかもしれません。試しにドライバーの球を普通の球から最高水準といわれるものに変えたら、やっぱり至極よくなりました。素材の差は、やはり残りますね。

 
 

音色はどこで決まってくるのか?

 
  このアンプの音色はもうトランス次第です。これはもうどうしようもありません。そのためアンプの前面には、他のイントラやインターステージを自由に付け替えることができるようになっています。背面には出力トランス用の端子が出てますので、当然出力トランスも自由に変えられます。ちなみにシャーシーの上に乗っているトランスは、1号機がラックスの定インダクタンス型のCSZ-36です。これは実動作ではチョークコイルです。クラーフ結合ですからこのトランスのスピーカー駆動用の二次出力は通常は使いません。外に持ち出したとき外付け出力トランスを運べないときだけ、お出かけモードとしてこのトランスの二次出力をとりあえず使用します。まあモノラルで1台23キロの重量がありますので、さらに出力トランスまで持っていくというのは腰痛の元ですね。  
  インターステージを変えてみると?  
 
 
  お寺大会でゲットしたサンスイの古いインターステージ・トランス(手前の丸い黒いトランス)を付け替えてみました。オリジナルの特注のファインメット・トランスでは、あたりまえに実に正確に多くの情報量を尾ひれをつけずに慄然と再生します。まともでまじめで正確です。一流のフランス料理のレストランみたいかな。ところがこのサンスイの黒いインターステージは、いやあ実に”いい音”がするんですねー。よく聴くと音は潰れるは抜けるは尾ひれはつくわ、なんですが、そのへんがまたたとえようもなくよろしい。くたびれて家路に帰る途中に赤ちょうちんに、よろしいお姉さんがカウンターにいたりして、冷たいビールでくわーっとモツ焼きをつまみに。。。。。これもまた、いいんじゃないかと思いますが。この赤提灯、黒くて丸い形してたりして。  
  要は手間ひまをかけて作ったので、”基本設計が実にしっかりとしているから、正確に素材の差を表現できた”と自慢したいんです(笑)。回路図は手書きのものを手作りアンプの会の三土会で配布しましたが、回路がてんこ盛りになってて読みづらいので、そのうち清書したら追加します。組み上げたときには配線ミスが1箇所あっただけで直したら一発で動きました。きたない配線ですがハムもノイズ何もありません。ただしこの回路は経験の少ない方にはお勧めしません。動作点の選び方が結構難しくヘマると各電源が発振します。チョーク・コイルと半導体の定電流回路が直列になっているところでは異なる収束特性ふたつの定電流特性が綱引きを演じ発散しました。これには思わず笑ってしまいました。とりあえず手書きですが回路はこうです。回路はよく変更し変わりますが、今のところ、だいたいこんなところです。尚このアンプは無帰還でDFが低く、重たいネットワーク背負った低能率のスピーカーの駆動は苦手です。  
     
 
9/09/2009