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3A Horn 修理と調整

希少なウエスタン・エレクトリック 3A ホーンの修復と調整

  修復作業の準備  
  私はオーディオに限らず、どんなものでも本当に気に入った良いものを購入し、メンテナンスをしながら長く使用する。壊れたらお金をかけてでも修理して使う。修理に関しても腕の良い納得のいく仕事をする名人には、すべてを任せるが、そのような人にめぐりあえない場合は、自分でやれるものは自分で作業する。まずは、何ヶ月も現物を眺め、いろいろと調べて修理、調整の作戦を練る。その上で作業に必要な治具を作りはじめる。そして作業の工程を書き出し、材料を用意し、またしばらく考える。頭の中で作業のイメージを作り、何度も頭のなかで思考を重ねる。そして、考えがまとまったら作業を開始する。  
  まずは作業場をきれいに掃除し、治具工具材料を揃え体調の良い午前中に行う。2時間以上の作業はしない。疲労や長時間の作業は集中力が落ちてしまい、仕事が雑になるし、失敗が起こることもある。日光の射さない夜などはやめたほうが良い。  
  変形した Western Electric 3A ホーン  
  24Aや25A ホーンの場合は、絶対に叩いて直してはいけない。熱を加えてもいけない。ブリキ板の間に鳴き止めの防振剤が充填されているからだ。これを叩くと、固まっている防振剤が内部で割れてボロボロになってしまう。熱を加えるとこの防振剤は溶け出してしまう。3Aホーンの場合は、一枚の鉄板でできているので、叩いて直すことができる。修復に先立ち静岡県は豊岡にあるヤマハさんの管楽器工場のトランペットの手作りのラインを特別に見学する機会を得た。銀杏の葉の形に切断された真鍮の板をロウづけして先の広がった漏斗状の管をつくり、これを型にセットして、"達人"がハンマーで数千回叩いて、トランペットの形に作り上げていくのである。身震いとともに感動が全身に走った。挑戦の気概が全身に漲った。下が折れ曲がったものを素人が下手に直してさらに複雑に曲がってしまった3Aホーンだ。  

一万回叩けば治るホーン

 
 
プラスチックのハンマーと先端をテープでマスキングした玄翁をつかい、とても弱い力で、正確に少しずつ様子を見ながら叩いて、叩いて、叩いて形を整えていく。数千回叩けば、あのみごとな流線型のトランペットのホーンが出来上がるのだから、根気よく正確に一万回も叩けば、ホーンも治ってしまうだろう。実は一万回というのは、それほど大した作業ではないのだ。計測してみると一秒間に2回くらいのペースで叩いているので、ひと叩きが0.5秒である。一万回叩くのに83.3分しかかからないのである。問題は、正確さと集中力と根気なのだ。というわけで下が仕上がった状態の写真である。修復の前後がよく分かるように、意図的に塗装のはげた部分を選んで示してある。塗装のはげ方の形状で、明らかに同じ部分の修復であることが理解できる。引っ張りと叩きによって、下の写真で、一部に塗装のはげができたが、これは音を変えずにうまく修復すればよい。古く、きたなく見える3Aホーンであっても安易に再塗装をしてはいけない。普通の塗装では、ホーンの響きが変わるからだ。
 
 
 
  さらに音質を全く変えない部分塗装によって、ほぼ元どおりに復旧した状態。この塗装は、手でさすると容易に落ちてしまう。あえて修復したことを残すのが、文化財に対しての礼儀である。復旧にはかなりの時間と根気をかけたが、おかげで3Aホーンを細部までよく観察する機会を得た。おどろくほどに丁寧な手作業による作りである。実によくできている。きっと販売されていた当時もかなりの値段の代物だろうことが推測できる。  
 
 
 
8/22/2005